トラスツズマブの作用機序・副作用

トラスツズマブ(ハーセプチン)はHER2過剰発現が確認された場合に使用される分子標的薬です。乳がん、治癒切除不能な進行・再発(胃がん、唾液腺がん、直腸癌)に使用されます。

トラスツズマブ(ハーセプチン)の適応症

  • HER2過剰発現が確認された乳癌

  • HER2過剰発現が確認された治癒切除不能な進行・再発の胃癌

  • HER2陽性の根治切除不能な進行・再発の唾液腺癌

  •  がん化学療法後に増悪したHER2陽性の治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌

トラスツズマブの作用機序

HER2(ヒト上皮成長因子受容体2型)は、細胞表面に存在する受容体で、細胞内部にはチロシンキナーゼ部位があります。HER2が二量体として結合すると、チロシンキナーゼが活性化され、これにより細胞内にシグナルが送られます。

一部のがん細胞では、HER2が過剰に発現しており、チロシンキナーゼが過剰に活性化されることでがん細胞内にシグナルが伝わり、増殖が促進されます。

トラスツズマブはHER2に結合する抗体であり、この結合によってチロシンキナーゼのシグナルが抑制されます。同時に、トラスツズマブはNK細胞や単球などの免疫細胞に目印となり、抗体依存性細胞障害作用(ADCC)を介してがん細胞が攻撃されます。

ちなみにモノクローナル抗体は、1種類のタンパク質や細胞に結合する抗体を人工的に増殖(クローナル)させたものです。トラスツズマブはヒト化モノクローナル抗体に分類されます。マウス由来の部分が5%程度であり、ほとんどがヒト由来のタンパク質で構成されています。

抗体薬物複合体(ADC)

  • トラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)
  • トラスツズマブ エムタンシン(カドサイラ)

トラスツズマブに殺細胞性抗がん剤を結合させた薬剤も開発されています。エンハーツはトラスツズマブにトポイソメラーゼⅠ阻害剤であるデルクステカンを結合させた抗体薬物複合体です。またカドサイラはトラスツズマブにチューブリン重合阻害薬のエムタンシンを結合させています。

湯婆婆

デルクステカンはイリノテカンと同系統なので、名が似ておる。

トラスツズマブの副作用

心毒性

HER2は心臓にも発現しており、トラスツズマブなどの抗HER2阻害薬の使用に伴ってうっ血性心不全や左室駆出率(LVEF)の低下が観察されることがあります。

特に、心不全や冠動脈疾患、不整脈などの既往の心疾患を有する患者においては、慎重な検討が必要です。そこでトラスツズマブを投与する前には心エコーやMUGAスキャンを行い、LVEFが十分であることを確認することが推奨されています。臨床試験では、LVEFが55%以上であることが条件とされています。

アントラサイクリン系の心毒性とは異なり、トラスツズマブの心毒性は投与総量との相関性が認められていません。

ハーゼプチン適正使用ガイド(乳がん)では、NYHA分類3/4に該当するような心障害が発現した場合にはトラスツズマブの投与を中止し、LVEFが50未満の場合には条件に応じて休薬が必要とされています。

Ⅰ度 日常的な活動で症状(-)
Ⅱ度 安静時は症状(-)、日常的な活動で症状(+)
Ⅲ度 安静時は症状(-)、日常的な活動以下で症状(+)
Ⅳ度 安静時は症状(+)

*症状:疲労、動機、呼吸困難、狭心痛

インフュージョンリアクション

抗体医薬品の場合は投与時のインフュージョンリアクションに注意を払う必要があります。初回投与で起こりやすく、投与速度が速い場合もリスクが高いため、初回は90分で点滴静注を行います。

なおインフュージョンリアクションに対して抗ヒスタミン薬や副腎皮質ホルモン剤等を前投薬する有用性は確認されていません。そのため、症状が現れてから対応することが多いです。