パニツムマブ(ベクティブックス)はKRAS遺伝子野生型の治療切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌に適応のある分子標的薬です。

作用機序

パニツムマブは、EGFR(Epidermal Growth Factor Receptor:上皮成長因子受容体)阻害薬の一種です。そもそも EGFRは細胞表面に存在する受容体で、細胞の成長や分裂を制御する上皮成長因子に結合します。正常な状態では、これによって正確な細胞の増殖が調節されています。

しかし、がん細胞では、EGFRが異常に活性化され、がん細胞が増殖する原因となります。 パニツムマブはモノクローナル抗体と呼ばれるタンパク質で、EGFRに特異的に結合します。

ただし、注目すべきなのはRasタンパク質です。Rasは通常、EGFRからの刺激を受け取り、これに応じて細胞増殖シグナルを伝達します。しかし、Rasタンパク質に変異がある場合、上流からの指示なしに細胞増殖シグナルを送ってしまいます。

このような状態では、パニツムマブを投与しても効果が期待できません。そのため、パニツムマブはKRAS遺伝子に変異がない(野生型)場合にのみ使用されます。

パニツムマブはセツキシマブと異なり、完全ヒト化抗体であるため、アレルギーによるトラブルが起こりにくいとされています。ただし、セツキシマブでもアレルギー症状の頻度はかなり低いため、実質的には大きな差はないとの意見もあります。

副作用

抗EGFR抗体(パニツムマブ、セツキシマブ)に特徴的な副作用の一つは低マグネシウム血症です。ほとんどが軽度で、重症化することは少ないですが、重篤になると心電図異常などが起こる可能性があります。

マグネシウムは遠位尿細管にあるTRPM6というイオンチャネルによって再吸収されますが、抗EGFR抗体によってTRPM6の発現が低下することが低マグネシウム血症を引き起こすメカニズムと考えられています。

皮膚障害

正常な皮膚表面にもEGFRが存在するため、EGFR阻害薬により皮膚障害が発生することがあります。これには皮膚乾燥、脂漏性皮膚炎、ざ瘡様皮疹、爪囲炎などが含まれ、患者の約8〜9割で観察されます。各症状の好発時期は異なり、ざ瘡様皮疹はEGFR阻害薬投与後早期(1〜4週間)に発現し、皮膚乾燥や亀裂は3週以降、爪囲炎は4週以降に発現しやすいです。

皮膚障害が強いほど患者の前生存期間(OS:overall survival)が延長すると言われているため、治療を継続する中で皮膚障害を管理することが重要です。

予防策としては、保湿剤(1日2回)、ミノサイクリン、そして日焼け止めの使用が挙げられます。臨床試験では、パニツムマブ投与前日から予防法を始めた場合、皮膚障害の発現率が低下したとの報告があります。

そのため、抗がん剤治療を開始する際に予防法を実践することが勧められています。治療法としては、ステロイド外用薬が基本です。皮膚症状が悪化し痒みが出る場合は、抗ヒスタミン薬が投与されます。

日常生活では、皮膚の刺激を避けることも重要です。例えば、熱いお湯の使用は控え、石鹸は低刺激のものを選択するなどの配慮が必要です。

皮膚障害に対して十分な治療をしているにも関わらず、Grade3以上の皮膚障害が発言した際は投与延期・中止し、用量を調節します。ただし、安易な中止は治療効果を弱めてしまう可能性があるため慎重な判断が必要になります。

インフュージョンリアクション

抗体薬などタンパク質製剤を点滴したときに過敏反応が起こる副作用をインフュージョンリアクションと言います。

モノクローナル抗体にはマウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体の四種類があり、完全ヒト抗体が最もインフュージョンリアクションのリスクが少ないとされます。

セツキシマブはキメラ抗体であるのに対し、パニツムマブは完全ヒト化抗体であるため、アレルギーによるトラブルが起こりにくいとされています。ただし、セツキシマブでもアレルギー症状の頻度はかなり低いため、実質的には大きな差はないとの意見もあります。