化学療法によって引き起こされる悪心・嘔吐(CINV)は、予防が基本です。このとき、抗がん薬の催吐リスクに応じて適切な制吐剤を選択し、制吐剤による副作用や相互作用も考慮する必要があります。
2023年に改定された制吐薬適正使用ガイドラインでは、オランザピンの使用やステロイドスペアリングについても言及され、選択が一層複雑になっています。そこで、薬剤師の視点からCIVNの予防法や治療法について簡単にまとめます。
抗がん薬以外の要因がないか考える
まず、抗がん剤を使用している患者さんに「悪心・嘔吐」が現れた場合、抗がん薬以外が原因であることも念頭におく必要があります。判断材料として、悪心・嘔吐のタイミングが重要です。抗がん薬による悪心・嘔吐は発現時期に応じて以下のように分類されます。
| 分類 | 時期 |
| 急性 | 投与後〜24時間(1日) |
| 遅発性 | 24〜120時間(2〜5日) |
| 超遅発性 | 120時間以降(5日以降) |
上記の抗がん剤投与後のタイミングに合致しない場合は抗がん薬以外の原因の可能性が高まるため、身体所見や検査によって鑑別すべきです。例えば、オピオイドによる副作用、高カルシウム血症などの電解質異常、腹膜転移、消化管バイパス術による影響、脳腫瘍・脳浮腫などがあります。

出典:がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン(2011年版)
例えば、血液検査データから電解質異常の有無を確認し、CT画像から腸閉塞の有無を確認します。また、病歴から脳転移の有無を確認することで、原因を絞り込むことができます。
抗がん薬による悪心・嘔吐の予防方法
上記のように抗がん薬による悪心・嘔吐は「急性・遅発性・超遅発性」に分類されます。悪心・嘔吐が持続する期間は抗がん薬の投与開始日から5日間とされていましたが、より長期間持続するケースもあるため2023年制吐薬適正使用ガイドラインより新規追加されています。
それぞれの時期に対して有効な予防薬が異なり、急性期は5HT3受容体拮抗薬、NK1受容体拮抗薬(第一世代)、デキサメタゾン、遅発期に有効な薬剤はNK1受容体拮抗薬(第二世代:パロノセトロン)、デキサメタゾンが有効です。これらを催吐性リスクに応じて組み合わせて使用します。
高度催吐性リスク(HEC)
高度催吐性リスクでは3剤併用(5HT3受容体拮抗薬、NK1受容体拮抗薬、デキサメタゾン)にオランザピンを追加した4剤併用が基本です。処方の一例として以下のようになります。

NK1受容体拮抗薬
NK1受容体拮抗薬には、経口薬のアプレピタント(イメンド)と注射剤のホスアプレピタント(アロカリス)があり、いずれかを選択します。
アプレピタント(イメンド)を使用する場合、3日間までの服用が基本ですが、効果不十分の場合は5日まで延長することができます。ホスアプレピタント(アロカリス)は注射剤であり抗がん剤投与1日目に1回点滴静注を行います。
アプレピタントとホスアプレピタントはいずれもCYP3A4を阻害しますが、併用禁忌薬はありません。ただし、後述のMEC(中等度催吐リスク)においては、デキサメタゾンとの相互作用を考慮し、デキサメタゾンを減量する場合があります。
オランザピン
なおオランザピンは糖尿病に禁忌であること、臨床試験では75歳以上の使用経験がないことに注意が必要です。また1日1回の服用であるため、傾眠・転倒予防のために夕食後や就寝前の投与が望ましいとされています。

またオランザピンは公知申請により2017年6月から「他の制吐薬との併用において成人では5mgを1日1回経口投与(患者の状態により最大1日10mgまで増量可能)、最大6日間の投与を目安」として保険適用となっています。
オランザピンの代謝酵素であるCYP1A2は喫煙によって誘導されるため、喫煙者ではオランザピンの効果が減弱する可能性があることに注意が必要です。
デキサメタゾン
デキサメタゾンは初日に静脈注射で投与し、2~4日目は内服で投与します。デキサメタゾン錠4mgを2錠服用する計算になります。
ただし高度催吐性リスクの中でもAC療法は2日目以降のデキサメタゾンの投与期間を省略可能でステロイドスペアリングと呼ばれます。ただし、AC療法以外の高度催吐性リスク抗がん薬ではエビデンスはありません。

ステロイド投与期間を短縮することにより不眠症、高血糖、骨粗鬆症等の副作用を軽減できる可能性がありますが、ステロイドには倦怠感を改善する効果もあるため全例で短縮するのではなく、状況に応じて選択することが重要になります。
5HT3受容体拮抗薬
5HT3受容体拮抗薬は第一世代(グラニセトロン、オンダンセトロン、ラモセトロン)と第二世代(パロノセトロン)があります。第一世代に比べると第二世代のパロノセトロンは半減期が長く、遅発期の制吐効果はパロノセトロンが優れています。
そこで遅発期の効果を増強させたいときはパロノセトロンを優先して使用することがあります。
例えば、糖尿病等の理由でオランザピンが使用できない3剤併用(5HT3受容体拮抗薬、NK1受容体拮抗薬、デキサメタゾン)を使用するときやデキサメタゾンを短縮する場合になります。

ただし他の制吐薬の組み合わせによっては第一世代(グラニセトロン、オンダンセトロン、ラモセトロン)と第二世代(パロノセトロン)で有意差がなく、どちらでも良いとされるケースもありますが上記についてはパロノセトロンを優先することを覚えておきましょう。
中等度催吐性リスク(MEC)
中等度催吐性リスクでは2剤併用(5HT3受容体拮抗薬、デキサメタゾン)が基本です。このとき、5HT3受容体拮抗薬はパロノセトロンが望ましいとされます。またパロノセトロンを選択した場合はデキサメタゾンを1日に短縮することが強く推奨されているため、基本パターンは1日のみの投与で完結します。処方の一例として以下のようになります。

ただしカルボプラチン(AUC≧4)を含む治療レジメンにおいてはNK1受容体拮抗薬を追加した方が効果が高いため3剤併用(5HT3受容体拮抗薬、NK1受容体拮抗薬、デキサメタゾン)が基本になります。

3剤併用する場合はアプレピタントとデキサメタゾンの薬物間相互作用を考慮してデキサメタゾンの用量を50%減量します。アプレピタントはCYP3A4を阻害し、デキサメタゾンの代謝を阻害するためです。

3剤併用(5HT3受容体拮抗薬、NK1受容体拮抗薬、デキサメタゾン)では5HT3受容体拮抗薬第一世代を考慮しても良いとされます。ただしデキサメタゾン投与期間を短縮する場合は第二世代5HT3受容体拮抗薬であるパロノセトロンを使用します。
ちなみに、中等度催吐性リスク抗がん薬の悪心・嘔吐予防として2剤併用療法へのオランザピンの追加は推奨されていません、オランザピンを予防で使用できるのは高度または中等度のカルボプラチン併用の3剤併用への上乗せの場合になります。
エンハーツ(トラスツズマブ・デルクステカン)は国内ではMECに分類されますが、NCCNではHECに分類されます。そのためHECに準じた予防法をしてる施設もあります。エンハーツでは悪心が10日ほど続くケースもあり、遅発性悪心・嘔吐の対策が重要となります。
軽度催吐性リスク
単剤(デキサメタゾン、5HT3受容体拮抗薬、ドパミンD2受容体拮抗薬)が投与されることが多いですが、予防投与として推奨できる明確なエビデンスはありません。ベンゾジアゼピン系やH2受容体遮断薬、PPIも選択肢となります。
最小度催吐性リスク
遅発期、急性期ともに予防投与は不要です。
制吐療法
予期性悪心・嘔吐
予期性悪心・嘔吐が発現した場合はベンゾジアゼピン抗不安薬(ロラゼパム、アルプラゾラム)を治療前日と当日に投与します。当日は抗がん薬開始の1〜2時間前の投与になります。治療サイクルが多くなるほど予期性悪心・嘔吐のリスクは高まり、抑制も難しくなることが知られています。
また予期性悪心・嘔吐の誘因となりうる強い匂いを避けることがNCCNガイドライン2023ver.2に記載されている。ベンゾジアゼピン系抗不安薬の効果はがん薬物療法を継続するうちに減弱する傾向がある点にも注意が必要です。またベンゾジアゼピン系抗不安薬を1ヶ月以上使用した場合は漸減した上で中止し不安焦燥といった離脱症状を軽減させます。
放射線宿酔
全身に比較的短時間に高い線量の電離放射線を被ばくした場合に起こる吐き気、嘔吐、下痢などの胃腸症状および全身倦怠感を放射線宿酔といいます。
放射線治療による悪心・嘔吐に対しては、照射部位によるリスク分類を行い、リスクに応じてNK1受容体拮抗薬、デキサメタゾンを用います。

突出性悪心・嘔吐
予防的投与を行った制吐薬とは作用機序の異なる薬剤を使用することを原則としている。予防薬にオランザピンが含まれてる場合、突出性悪心・嘔吐にオランザピンは追加投与しないのが基本になります。
予防薬にオランザピンが含まれていない場合、有効性がシステマティックレビューで示されており、3日間のオランザピン投与が推奨されています。
副作用
5HT3受容体拮抗薬、NK1受容体拮抗薬の副作用として、便秘と頭痛があります。便秘自体が悪心を誘発することがあるため、制吐対策と同時に便秘対策も必要になります。

NK1受容体拮抗薬であるホスアプレピタントは静脈内投与の抗がん剤レジメンにあらかじめ組み込むことができ、利便性に優れるが末梢静脈投与で注射部位障害に注意が必要。中心静脈アクセスを有する患者においては中心静脈内投与を考慮する。
