緩和ケアの起源・歴史

ホスピスの起源は中世ヨーロッパにさかのぼります。「ホスピス」という言葉はラテン語の「ホスピティウム(hospitium)」に由来し、「客をもてなす場所」を意味します。当初、ホスピスは巡礼者や旅人の休息場所として機能し、同時に病人や貧困者のための慈善施設としても利用されました。これらの施設は宗教的な背景を持ち、キリスト教修道院や教会が中心となって運営していました。

ホスピスはその後、時代の変遷とともに、特に重篤な病気や死に直面する患者に寄り添い、身体的・精神的なケアを提供する場へと発展しました。

近代のホスピス

近代的なホスピスの概念が形成されたのは20世紀に入ってからです。その中心的な人物が、イギリスの看護師であり社会活動家であったシシリー・ソンダース(Cicely Saunders)です。彼女は、治癒が困難な患者に対する終末期ケアの重要性を訴え、1967年にロンドンで現代的なホスピスの先駆けとなる**セント・クリストファー・ホスピス(St. Christopher’s Hospice)**を設立しました。

ソンダースは以下の点を強調しました:

  • 全人的ケア:身体的苦痛だけでなく、精神的、社会的、霊的な苦痛にも対応すること。
  • 痛みの管理:特に終末期における疼痛コントロールを重視すること。
  • 家族のサポート:患者だけでなく、その家族もケアの対象とすること。

この近代ホスピス運動により、ホスピスは単なる治療の場ではなく、患者とその家族が安心して最後の時間を過ごせる場所として認識されるようになりました。

現在、ホスピスは世界中で広まり、病院や在宅ケアの中にもホスピス理念が取り入れられています。また、日本でも1990年代以降、ホスピスや緩和ケア病棟の整備が進み、多様な形で終末期ケアが提供されています。

WHOの定義

この流れを受け、世界保健機関(WHO)は緩和ケアの重要性を認識し、より統一的な概念と指針を提示するために定義を策定しました。

WHOは、1990年に初めて緩和ケアを公式に定義し、その後も定義を更新しながら緩和ケアの普及を促進しました。現在の定義は2002年に改訂されたものです。

WHOは緩和ケアを次のように定義しています:

緩和ケアとは、患者とその家族に対して、生命を脅かす疾患に関連した問題に直面したときに、痛みやその他の身体的、心理社会的、霊的な問題を早期に評価し、適切に対応することで、生活の質を改善するためのアプローチである。

この定義には以下の重要な要素が含まれています:

  1. 全人的ケア
    身体的な痛みだけでなく、心理的、社会的、霊的な苦痛を対象とすること。
  2. 早期からの介入
    症状や苦痛を早い段階で評価し、治療を開始することで患者の生活の質を向上させること。
  3. 患者と家族を対象
    医療の対象を患者本人だけでなく、家族全体に広げ、家族が直面する負担を軽減すること。
  4. 死を自然な過程として尊重
    死を迎える患者に対して、過剰な延命治療を行わず、尊厳を保ちながらサポートすること。
  5. 治療と並行して提供可能
    緩和ケアは疾患治療と並行して行うことができるため、治療を諦めることを意味しない。

国内での緩和ケア

日本初の独立型ホスピスは1981年に静岡県浜松市の聖隷三方原病院に開設され、終末期医療に全人的ケアを導入しました。その後、緩和ケアは診療報酬に加わり、がんや慢性疾患への支援として普及。現在は在宅ケアや地域支援の整備が進む一方、「終末期限定」という誤解の払拭や体制強化が課題とされています。

全人的苦痛

全人的苦痛(トータルペイン)とは、患者が病気や治療を通じて感じる苦痛を身体的、精神心理的、社会的、スピリチュアルな側面から多角的に捉える考え方です。この概念は、患者が抱えるつらさを多面的に理解し、適切なケアを提供することを目的としています。

身体的苦痛には、直接的な痛みや倦怠感、呼吸困難などの肉体的な症状が含まれます。これらは比較的分かりやすいため、疼痛管理や症状緩和を中心に対応が進められます。一方、精神心理的苦痛は心の苦しみとして現れます。たとえば、イライラして落ち着かない、そわそわして何も手につかない、将来を考えると不安になるといった感情や、病気を否認する気持ち、気分の落ち込みや抑うつ状態、さらにはせん妄に伴う不穏な状態がこれに該当します。これらの心理的負担は、医療者との信頼関係や心理的ケア、必要に応じた薬物療法によって軽減が図られます。

社会的苦痛は、患者や家族が置かれている環境から生じる問題です。たとえば、経済的な負担や治療費の心配、職業を失ったり変更を余儀なくされる状況、さらには患者や家族の生活そのものに影響を及ぼす課題が挙げられます。ローンの支払いが困難になる、自宅で療養を希望してもその環境が整わないといった現実的な問題も社会的苦痛に含まれます。これらに対しては、ソーシャルワーカーや地域支援サービスを通じて患者と家族を包括的に支える取り組みが求められます。

スピリチュアルペインは、患者の人生観や存在意義に関わる深い苦しみとして現れます。死後の世界に対する不安や、「こんな病気になるなんて」といった絶望感、「生きる意味は何か」という問い、さらに「こうなったのは自分の生き方のせいだ」といった自己責任感や、「なぜ私だけがこんな目に遭うのか」と感じる理不尽さへの怒りが含まれます。これらは患者の内面的な問題であり、深い共感とともに、患者の価値観や人生観を尊重する姿勢が必要です。場合によっては、専門的なカウンセリングが有効な場合もあります。

全人的苦痛の概念は、これらの苦痛を単に分類するためのものではありません。むしろ、患者が抱えるつらさを多面的に理解し、それぞれの状況に応じた適切なケアを提供することが最大の目的です。医療者は患者を一人の人間として尊重し、その苦痛を全体的に評価したうえで、身体、心、社会、そしてスピリチュアルな面のすべてに寄り添った支援を行う必要があります。このアプローチによって、患者が最も安心できる形で医療とケアを受けられることが目指されています。

包括的アセスメント

包括的アセスメントとは、患者が抱える苦痛をさまざまな側面から検討し評価するアプローチであり、全人的なケアを実現するために不可欠なプロセスです。このアセスメントでは、まず身体的苦痛、精神心理的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルペインの順番で苦痛を評価します。これは、疼痛などの身体症状が緩和されていないと、それ自体が他の苦痛を悪化させる要因となるためです。

身体的苦痛の評価では、疼痛やその他の身体症状の有無や程度を確認し、それに応じた緩和策を講じます。これにより患者の全体的な負担を軽減し、他の苦痛への対応を可能にします。続いて精神心理的苦痛では、不安、抑うつ、気分の変動などの感情的な負担を探り、必要に応じて心理的支援や治療を提供します。社会的苦痛の評価では、患者や家族が抱える経済的問題、生活環境の課題、職業や社会的役割の変化に目を向けます。一方、スピリチュアルペインは、患者が抱える人生観や存在意義への問い、不安や後悔などに寄り添い、患者の価値観や生き方を尊重した対応が求められます。

苦痛の評価に加えて、患者や家族の意向と目標の共有も重要です。現在の気がかりや患者が成し遂げたいことを尋ねることで、ケアの方向性を患者・家族と医療チームが共有し、目標に基づいた支援が可能となります。また、家族に関する評価も欠かせません。家族構成やそれぞれの役割、キーパーソンを把握し、家族が感じるつらさや困難を評価することで、家族全体を支えるアプローチを検討します。

包括的アセスメントには、病状や身体的状況、医学的評価といった一般診療に共通する事項も含まれます。現病歴、既往歴、身体所見、検査値を総合的に確認し、さらに予後予測を行うことで、疾患の経過に合わせた適切な支援を提供します。予後予測にはいくつかのツールが存在し、状況に応じた活用が推奨されます。

このように、包括的アセスメントは患者だけでなく家族も対象とし、多面的な苦痛を評価することで、患者・家族にとって最適なケアを実現するための基盤となる重要なプロセスです。

具体的な方法

目の前の患者が抱える全人的苦痛を包括的にアセスメントするためには、患者の状況や気持ちに寄り添いながら、以下のように具体的かつ優しい問いかけを行うと効果的です。患者が話しやすい環境を整え、安心感を与えることを念頭に置きつつ、全人的苦痛の各側面に対応する質問を展開します。

1. 身体的苦痛に関する問いかけ

患者の身体的症状や痛みを把握するために、具体的で簡単な質問をします。

  • 「今、一番つらい症状や痛みはどんなものですか?」
  • 「その痛みはいつから感じていますか?どんなときに強くなりますか?」
  • 「眠れていますか?食欲はどうですか?」
2. 精神心理的苦痛に関する問いかけ

患者の気持ちや心の負担に目を向けるための問いかけです。

  • 「最近、気持ちが落ち込んだり、不安に感じることはありますか?」
  • 「この先のことを考えると、どんなことが気がかりですか?」
  • 「日常生活で何かイライラしたり、落ち着かないことはありますか?」
3. 社会的苦痛に関する問いかけ

患者や家族が抱える生活環境や社会的課題を把握するための質問です。

  • 「治療や入院にあたって、生活面で何か心配なことはありますか?」
  • 「今の状況が家族の生活やお仕事にどんな影響を与えているか感じますか?」
  • 「ご自宅で過ごしたいとお考えの場合、どんな支援があるとよいでしょうか?」
4. スピリチュアルペインに関する問いかけ

患者の人生観や存在意義への悩みを慎重に尋ねる必要があります。

  • 「今、ご自身のことをどんなふうに感じていますか?」
  • 「この病気になってから、どんな思いが浮かぶことが多いですか?」
  • 「将来のことや死後について、不安や気になることがあれば教えてください。」
5. 患者の意向と目標を共有する問いかけ

患者が何を望み、どのように過ごしたいのかを確認します。

  • 「今、一番気になっていることや、何とかしたいと思っていることはありますか?」
  • 「治療やこれからの過ごし方について、どうしたいと思っていますか?」
  • 「何か成し遂げたいことや、会いたい人などはいますか?」
6. 家族の状況を評価する問いかけ

家族のつらさや役割、支援体制を把握します。

  • 「ご家族の皆さんは今、どのような気持ちでいらっしゃると思いますか?」
  • 「ご家族の中で、特に頼りにしている方や支えになっている方はいますか?」
  • 「家族で話し合っている中で、何か共通の希望や不安がありますか?」
問いかける際の注意点
  • 患者が話しやすい雰囲気を作るために、適切なタイミングを選びます。
  • すべての質問に答えさせる必要はなく、患者の反応に応じて柔軟に進めます。
  • 「何かお困りのことがあれば教えてください」と広く問いかけた後に、具体的な質問を追加していくと話しやすくなります。
  • 共感的な態度を示し、否定せず、患者の言葉を繰り返すなどして安心感を与えます。

これらの問いかけを通じて、患者が抱える全人的苦痛を包括的に理解し、適切なケアにつなげることが可能になります。

痛みを問診する具体的な方法

身体的苦痛に関する質問を考える際は、痛みの詳細を多角的に捉えることが重要です。まず、痛みの場所や広がりを確認し、患者がどこで痛みを感じているか正確に把握します。次に、痛みの性質(鋭い、鈍い、重苦しいなど)や強さを尋ね、患者が感じる痛みの種類と程度を理解します。また、痛みの持続時間や増減の有無、特に何が痛みを強めたり軽減させたりするかを探ることで、痛みの背景や要因を特定します。さらに、日常生活への影響や発症のきっかけにも目を向け、痛みが患者の生活にどのように影響しているかを確認します。これにより、患者が伝える痛みを具体的に評価し、適切な対応を考える基礎を築きます。

  • 痛みの場所と広がり
    「痛みを感じる場所をもう少し詳しく教えていただけますか?心窩部や背中以外にも痛むところはありますか?」
  • 痛みの性質
    「その痛みはどのような感じですか?鋭い痛み、鈍い痛み、または重苦しい感じなどでしょうか?」
  • 痛みの強さ
    「痛みの強さを10点満点で例えると、どのくらいでしょうか?」
  • 痛みの持続時間と変化
    「その痛みはずっと続いていますか、それとも波のように強くなったり弱くなったりしますか?」
  • 痛みの増悪・軽減因子
    「何かをすると痛みが強くなったり、逆に和らいだりしますか?例えば、食事や姿勢の変化などは関係がありますか?」
  • 日常生活への影響
    「その痛みのせいで、食事をしたり眠ったりするのが難しいと感じますか?」
  • 発症のきっかけ
    「1週間前に痛みを感じ始めたとき、何か特別なきっかけや前兆のようなものはありましたか?」

がん疼痛治療の目標

がん疼痛治療の目標は、患者の満足度や日常生活への支障に応じて、達成可能なものから段階的に設定することが重要です。たとえば、以下のような段階的な目標を設定すると効果的です。

まず、第一の目標として、「痛みに妨げられることなく夜間に睡眠をとれる状態」を目指します。次に、第二の目標として、「安静時の痛みを消失させること」を設定します。そして、第三の目標として、「体動時の痛みを消失させること」を目指します。

がん疼痛の治療

WHO方式がん疼痛治療法の原則

By mouth
可能な限り経口薬を使用することで、患者の負担を軽減します。経口投与が困難な場合は、注射や貼付剤、座薬などの代替手段を用います。

By the clock
疼痛が起きてから対処するのではなく、一定の間隔で定時に薬を投与することで、持続的な疼痛管理を行います。痛みが強まる前に薬を効かせることが重要です。

For the individual
痛みの性質や強さ、患者の状態を考慮し、薬剤や投与量を個別に調整します。患者ごとに最適な治療を選択し、過剰投与や副作用を避けることが重要です。

with  attention to detail
患者に合わせて細かい配慮が必要です。例えばオピオイドに誤解がある場合は誤解を解き、鎮痛薬の使い方、特にレスキューについて説明が必要になります。

アセトアミノフェン

1日の最大投与量は4000mgです。ただし、体重50kg未満の患者や小児患者では、1日最大投与量が60mg/kg(1回15mg/kg)を超えないよう注意が必要です。投与後約1時間で鎮痛効果を発揮するため、レスキューとしての使用が可能です。ただし、半減期が短いため、定期的に使用する際は鎮痛効果の切れ目に注意し、適切な間隔での投与を心がける必要があります。また投与経路による生体内利用率は変わらないので、内服でも坐薬でも投与量は同じになります。軽~中等度の痛みがあり、鎮痛剤をまだ使用していない場合に選択肢となり得ます。頓服としてロキソプロフェンを処方するのも良いです。

NSAID

消化器症状や腎機能障害に注意しながら使用する必要があります。軽~中等度の痛みがあり、鎮痛剤をまだ使用していない場合に選択肢となり得ます。具体的な例として、ロキソプロフェン錠60mgを1日3回、毎食後に使用する処方(例:ロキソプロフェン錠60mg 1回1錠 1日3回)があります。

オピオイド

トラマドール

トラマドールは代謝物であるM1がオピオイドμ受容体に結合することで鎮痛効果を発揮します。また、セロトニン・ノルアドレナリンの再取り込みを阻害する作用も持っています。モルヒネとの用量換算では、トラマドール100mgが経口モルヒネ20mgに相当します。

一方で、トラマドールはCYP2D6によってM1に代謝されるため、薬物相互作用に注意が必要です。特に、日本人の約5%はCYP2D6のPM(Poor Metabolizer)であり、この場合、トラマドールの効果が十分に発揮されない可能性があります。また、SSRIなどセロトニン作用を持つ薬剤と併用すると、セロトニン症候群のリスクが高まるため、慎重に使用する必要があります。

さらに、トラマドールは1日400mgを超える用量での安全性と有効性が十分に確認されていないため、この上限を超えないように使用することが求められます。

フェンタニル

フェンタニル貼付剤は、用量調整には向いていません。投与開始や用量変更後、定常状態に達するまで48~96時間かかり、剥離後の半減期も17~45時間と長いためです。そのため、十分な鎮痛効果が得られるまで時間がかかるだけでなく、過量投与となった場合の対応も困難です。

特に、傾眠や呼吸抑制といった重篤な有害作用が生じるリスクがあるため、継続的に観察できる環境でのみ使用すべきです。患者の状態を慎重に評価し、安全性を確保しながら適切に使用することが求められます。

ROO製剤(口腔粘膜吸収型速効性オピオイド)は、定時投与のオピオイド量との相関性が低いため、定時投与のオピオイドとは別にレスキュー用の用量を調整する必要があります。また、この製剤には投与間隔の規定があり、1日4回までという使用制限があるため、使用時には十分に注意が必要です。患者の状態や使用頻度を適切に評価しながら、安全に使用することが求められます。

オピオイドの副作用

眠気には耐性が見られ、数日で焼失することが多いです。また「眠気は心地よい感じですか?それとも不快な感じですか?」と聞き、不快であれば対応を検討するようにします。

オピオイド開始

(略)

オピオイド増量

持続痛の対応

持続痛が残る場合、非オピオイド鎮痛薬が使用されていなければ、その定期投与を開始し、必要に応じて最大投与量まで増量を検討します。また、オピオイドを増量する際は、副作用が許容範囲内であること(傾眠が生じないなど)を確認しながら進めます。

オピオイドの増量については、経口モルヒネ換算で以下の基準にを参考にして増量を行います。

  • 120mg/日以下の場合:50%ずつ増量します。
  • 120mg/日以上の場合、または体格が小さい、高齢者、全身状態が不良な場合:30%ずつ増量します。
突出痛の対応

定時オピオイドを使用していても、約70%の患者は突出痛を経験します。突出痛は、ピークまでの時間が3分、持続時間が平均15~30分で、発生部位は8割が持続痛と同じ部位に現れることが特徴です。突出痛がある場合、以下の点に留意します。

1. 突出痛のパターンを評価する
  • いつ、どんな状況で痛みが生じるのか(夜間、食事時、排泄時など)。
  • 前兆があるか、持続時間はどれくらいか。
  • 定時薬の効果が切れるタイミングで生じる痛み(end-of-dose failure)ではないかを確認します。
    特に、定時鎮痛薬内服前に同じタイミングで痛みが強まる場合、定期薬の不足が原因の可能性があります。その場合、投与量の増量や投与間隔の短縮を検討します。
2. レスキュー薬の使用を考慮する
  • 処方されたレスキュー薬の量が適切かどうかを確認します(定時薬1日量の15~25%、つまり1/6~1/4が目安)。
  • 患者がレスキュー薬を嫌がる理由を探ります。「なんとなく使わない方が良いのでは」といった不安を解消するために説明を行います。
3. レスキュー薬の使い方を説明する
  • 体動時に痛みが出るなど、明確なきっかけがある場合には、事前にレスキュー薬を使用する方法を提案します。
  • また投与間隔や1日最大量を明示しておくことが重要です。
4. その他の治療の検討

    環境の調整や補助的な治療を取り入れることで、患者の痛みを包括的に管理します。たとえば、腰への負担を軽減するために布団ではなくベッドを利用することを検討します。介護保険を活用してベッドの導入を進めることも有効です。また、杖やコルセットを使用することで体の負担を減らし、痛みを和らげるサポートができます。

    さらに、リハビリテーションを取り入れることも重要です。理学療法士(PT)や作業療法士(OT)に相談し、適切なリハビリプランを作成してもらうことで、動作の改善や生活の質の向上を目指します。動作はできるだけゆっくり行い、痛みを引き起こさないよう配慮することも大切です。これらの対応を組み合わせることで、患者の生活をより快適にすることを目指します。

    呼吸困難

    呼吸困難は「呼吸時の不快な感覚」という主観的な症状であり、これに対して呼吸不全はPaO2が60mmHg以下という客観的な病態を指します。がん患者における呼吸困難の頻度は21〜90%とされ、特に進行がん患者の約70%が最終6週間で呼吸困難を経験します。また、呼吸困難が出現してからの平均予後は6ヶ月以下とする報告もあり、呼吸困難は予後不良の因子とされています。呼吸困難の評価では、以下の点を確認します:

    1. 主観的評価:呼吸困難の程度や、不安要素の有無を患者に尋ねます。
    2. 身体所見:呼吸数、酸素飽和度、胸郭の動きなどを観察します。
    3. 検査:胸部X線、血液ガス分析、心臓エコーなどを実施します。
    4. 病歴の確認:喫煙歴やCOPDなどの既往歴を把握します。

    これらの評価を総合的に行うことで、患者の状態を適切に把握し、適切な治療計画を立てることが可能となります。

    呼吸困難のマネジメント

    がん緩和ケアガイドブックでは治療効果を見ながら段階的に行う。STEP1はモルヒネの頓服、STEP2はモルヒネの定期投与、STEP3は抗不安薬の追加。ステップによらず考えることは酸素投与、ステロイド、輸液への対処です。

    ステロイドが有効だと期待される病態は全てではない。がん性リンパ管症、上大静脈症候群、主要気道閉塞、合併するCOPD、喘息です。投与例としてデキサメタゾン(ベタメタゾン)4〜8mg/日で開始し、3〜5日で効果判定。期待した効果を認める場合は漸減し、最小量で継続。効果が見られない場合は中止。

    輸液量の調整として胸水、気道分泌、肺水腫を伴っている場合は輸液過多による呼吸困難の悪化を招く危険性がある。体液貯留兆候を悪化させないために、輸液料は500〜1000mL/日以下を検討。

    STEP1

    モルヒネの頓服として塩酸モルヒネ内服液5mg 0.5〜1包/回、塩酸モルヒネ注2mg(0.2mL)/回。1日に3-4回以上頓服が必要であれば定期投与を検討。

    STEP2

    オキシコドンは呼吸困難に十分な根拠がないためモルヒネが使用できない場合に使用する。フェンタニルは呼吸困難を改善する根拠が存在せず使用しないことが推奨される。どの程度の改善を望むか家族や本人と落とし所を話し合う。

    STEP3

    アルプラゾラムやロラぜパムの内服、ミダゾラムの持続注射。ただしベンゾジアゼピン系せん妄を惹起する可能性があるため注意。

     

     

    呼吸困難の治療

    呼吸困難の治療は、効果を確認しながら段階的に進めます。以下に各ステップの内容と治療のポイントを示します。

    STEP 1:モルヒネの頓服使用

    • 頓服例:
      • 塩酸モルヒネ内服液:5mg(0.5〜1包/回)
      • 塩酸モルヒネ注射液:2mg(0.2mL/回)
    • 使用の目安:1日に3〜4回以上頓服が必要な場合は定期投与へ移行を検討します。

    STEP 2:モルヒネの定期投与

    • モルヒネが第一選択:呼吸困難に対する効果が十分に証明されています。
    • オキシコドン:モルヒネが使用できない場合の代替として使用しますが、呼吸困難に対する十分な根拠はありません。
    • フェンタニル:呼吸困難を改善する根拠がないため、使用は推奨されません。
    • 留意点:治療の目標について患者や家族と話し合い、現実的な落としどころを共有します。

    STEP 3:抗不安薬の追加

    • 使用薬:
      • アルプラゾラムやロラゼパム(内服)
      • ミダゾラム(持続注射)
    • 注意点:ベンゾジアゼピン系薬剤は、場合によってせん妄を誘発する可能性があるため、慎重に使用します。

    ステップによらず考慮する治療

    酸素投与

    呼吸困難の緩和に使用しますが、必要性は患者ごとに異なります。

    ステロイド療法

    有効が期待される病態:がん性リンパ管症、上大静脈症候群、主要気道閉塞、COPD、喘息。

    投与例:デキサメタゾン4〜8mg/日で開始し、3〜5日で効果を評価。効果があれば最小量で継続、効果がなければ中止。

    輸液量の調整

    胸水、気道分泌、肺水腫がある場合、過剰な輸液は呼吸困難を悪化させる可能性があります。輸液量は500〜1000mL/日以下を目安に調整し、体液貯留兆候を避けるよう配慮します。

    これらの治療を患者の状態に合わせて段階的かつ包括的に行うことで、呼吸困難の緩和を目指します。

    気持ちの辛さ

    気持ちの辛さの危険因子と影響

    気持ちの辛さは、進行がんや再発がん、緩和されていない身体症状、全身状態の悪化といった医学的要因や、若年であること、神経質な性格、うつ病などの既往、社会的支援の不足(独居など)、教育歴が短いことといった個人・社会的要因に影響されます。

    その結果、がん患者ではQOLの低下や「死にたい」という思いの増加、自殺リスクの上昇、入院期間の長期化が見られます。特に、がん患者の自殺リスクは診断後1年以内、特に診断直後が最も高く、男性や高齢者、頭頸部がん、肺がん患者では注意が必要です。心不全患者では、死亡率の上昇や運動機能の低下、症状の重症化が関連します。

    気持ちの辛さのアセスメント

    アセスメントでは、まず一般的な質問から始め、徐々に気持ちの辛さについて焦点を当てます。「最近体の調子はどうですか?」などから、「気持ちが辛かったり、不安を感じることがありますか?」といった具体的な質問を重ねます。

    特に有用な質問として、「一日中気持ちが落ち込んでいませんか?」や「今まで好きだったことが楽しめなくなっていませんか?」が挙げられます。これらに「はい」と答えた場合、ケアが必要な可能性が高いと考えられます。

    さらに、「つらさと支障の寒暖計」を活用し、気持ちの辛さや日常生活への影響を数値で評価します。せん妄やアカシジアとの鑑別も重要です。希死念慮がある場合には、精神科医へのコンサルテーションを検討します。

    気持ちの辛さに対する治療とケア

    治療とケアは、原因への対応、薬物治療、専門家への相談を組み合わせて行います。身体的苦痛が原因であれば、鎮痛剤や制吐剤を投与します。社会的支援が不十分な場合には、医療ソーシャルワーカーと連携し、介護保険や生活保護の利用、訪問看護やヘルパーの導入などを検討します。

    薬物治療では、抗不安薬や抗うつ薬を用い、抗うつ薬は最大量を投与して3週間で効果を評価します。また、必要に応じて精神科医や心療内科医へのコンサルテーションを行います。これらのアプローチにより、患者の気持ちの辛さを軽減し、QOLの向上を目指します。

    コミュニケーション

    SHAREは、特に悪い知らせを患者に伝える際に用いられる、医療現場でのコミュニケーション技術を体系化したプロトコルです。この技術は患者との信頼関係を築きながら、情報を正確かつ効果的に伝えることを目的としています。それぞれの文字が示す要素と具体的な実践方法は以下の通りです。

    S:Supportive Environment(場の設定)

    患者が話しやすい環境を整えることを重視します。面談はプライバシーが保たれた静かな場所で行い、十分な時間を確保します。大部屋やカーテンだけで区切られた空間は避け、専用の面談室を活用します。電話の鳴らない環境を整え、面談中も患者が安心して話せる雰囲気を作ることが大切です。

    H:How to Deliver the Bad News(悪い知らせの伝え方)

    悪い知らせを伝える際は、患者が心の準備を整えられるよう配慮します。たとえば、「少し残念なお話をしなければなりませんが」と前置きすることで、患者が情報を受け入れる時間を与えます。その際、簡潔かつ明確な言葉で説明し、専門用語を避けます。患者が内容を理解したか確認しながら進めることが重要です。

    A:Additional Information(付加的情報の提供)

    悪い知らせを伝えた後、患者の理解を深めるために追加の情報を提供します。治療の選択肢やリスク、治療がもたらす影響について詳しく説明します。また、患者が他の専門医(セカンドオピニオン)に相談できることや、利用可能な医療サービスについても案内します。

    RE:Reassurance and Emotional Support(情緒的サポート)

    患者が感情を表に出すことを受け入れ、共感しながらサポートします。患者の反応を傾聴し、「驚かれたことでしょう」「つらいお気持ちだと思います」などの言葉で気持ちに寄り添います。また、患者が抱える不安を軽減するため、今後も責任を持って診療に当たる姿勢を伝えます。

    SHAREプロトコルは、患者との効果的なコミュニケーションを通じて、患者が治療やケアについて十分に理解し、安心感を得られるよう支援することを目的としています。この技術は、医療従事者が患者の気持ちに寄り添い、適切なケアを提供するための重要なツールとなっています。

    オピオイドに対する誤解への説明

    麻薬は末期患者が使うもの
    オピオイドは末期の患者さんだけが使うお薬だと思われがちですが、実は痛みが強い場合には、病気の進行度に関係なく早い段階でも使うことがあります。目的は、痛みを和らげて日々を少しでも楽に過ごせるようにすることです。お薬を調整しながら使えば、安全に痛みをコントロールすることができますので、安心してください。